Polarization photomicrograph

私の偏光顕微鏡写真撮影法


ミクロを撮る

Shooting Microscopic Images

秋山 実

顕微鏡といっても、それぞれの目的に応じた多くの種類があり、レンズや付属品、照明方法など、多岐にわたる。私が主として撮影した作品は、偏光顕微鏡によるものが多いので、それを主体に説明したいと思う。

反射などを消すために、カメラに偏光フィルターを取り付けることがある。

そのフィルターを2枚用意し、片方を回転させていくと、黒くなってなにも見えなくなる。これは、偏光素子が直角方向に交じわって、光を通さなくなるためである。(十字ニコルなどと呼んでいる)

 

この十字ニコルにした偏光フィルターの間に、タバコの包装などに使っているセロハンを、無造作に折り畳んで入れてみると、透明なセロハンが、青、黄、緑と、鮮やかな色彩に変貌する。

これは、結晶のように光を複屈折するものを、十字ニコルの間に入れると、干渉色がでるためである。(油膜やシャボン玉などの色も同じ)

 

偏光顕微鏡はこの原理を応用したもので、簡単に言えば、普通の生物顕微鏡の標本の上下に、偏光フィルターを置いたものと言える。(右図参照)

 


偏光顕微鏡で結晶のように複屈折する標本を見れば、鮮やかな干渉色が見られるわけで、本来は、遅延板(コンペンセータ)と組み合わせて、岩石、薬品、食品、繊維、生物組織などの構造解析などに使われている。

 

顕微鏡写真を撮る場合、原則としてカメラのレンズは使わない。顕微鏡に付属した対物レンズと撮影レンズを使う。

そして、重要なのは対物レンズである。周辺までピンとの合う、プラン系の対物レンズが必要。その他のレンズだと、ピントは中心だけしか会わず、周辺は像が流れてしまう。

 

対物レンズには、N.A.値という解像力を示す数値が表示されている。顕微鏡写真を引き伸ばして明視距離(25cm)から見た時に、最終倍率はN.A.値の1000倍までという。N.A.値0.25の対物レンズで撮った写真は、計算上250倍までしか伸ばせず、それ以上引き伸ばしたものは、馬鹿拡大といわれる。

しかし、同じ250倍まで拡大したとしても、撮影時のフィルムが35mmと4×5”では、フィルムの粒状性からいっても、後者が有利なことは明らかである。私が大型カメラしか撮らない理由も、ここにある。

標本づくり

渉色がみられる結晶は、けっこう身じかに多い。砂糖、重曹、化学調味料、塩などみんな結晶。また、暗室に入れば、メトール、ハイポ、赤血塩など。

さらに、ビタミンC、ナフタリン、アスピリンなど、探せば結構使える。

 

結晶の標本は、スライドグラスの上で微量の結晶を溶かして、薄く再結晶させるだけである。(正しくは溶剤をとばすという)

ただ、結晶といっても、水に溶けるもの、熱で溶解するもの、アルコールや油、更に特殊な溶剤にしか溶けないものなど、多様である。

「理化学辞典」「日本薬局方」などで、事前に十分調べることが肝要だ。

 

一般に顕微鏡写真というと、研究目的に撮られるため、結晶の場合も、いわゆる結晶の形を写したものが多い。しかし、私は結晶らしくない再結晶に力をそそぐ。なぜなら、その 方が被写体として魅力のある標本がつくれるからだ。


 顕微鏡写真で最も重要で苦労が多いのが、この標本づくりである。

 

再結晶の方法、試料の量など、試行錯誤の連続である。また、気温や湿度も関係し、同じ条件でやったつもりでも、同一の再結晶はしない。

私は、試料は極めて少なく、可能な限り短時間に、薄い再結晶をするように試みている。

 

標本を作る時、カバーグラスをのせるかどうか、という質問をよく受ける。たしかに、多くの場合、10倍以上の対物レンズは、カバーグラス(厚さ0.17mm)の屈折率を計算して設計されているが、私の経験では、10倍の対物レンズでは、カバーグラスの有無でシャープネスに影響は見られなかった。

むしろ、カバーグラスによって、再結晶の仕方がかなり異なる点に注目すべきだと思う。

 

私が今まで各種のルートから入手した結晶は400種以上であるが、その内半分は写真にならなかった。しかし、再結晶の奥深さに、楽しみと苦労をいまだに続けている。


撮影

顕微鏡の照明は、タングステンランプかハロゲンランプが使われている。電球は5~50Wと暗いが、コンデンサーレンズで集光されるため、意外に明るい。

 

また、撮影時の電圧(機種により異なる)や、色温度変換フィルターなどで調節する場合もある。

 

カラー撮影の場合、フィルムは、原則としてタングステンタイプを使用する。(デーライトタイプを色変換するのは、一寸無理があるようだ)

 

露光について、TTL露光計付きの35mmカメラなどは楽だが、その他はブースター付き露光計(ミノルタ)などが使いやすい。また、グラウンドグラス上に反射型露光計をあて、撮影結果との相関性を見い出し、自分なりの簡易露光換算表をつくることも出来る。

 

顕微鏡撮影で最も注意しなければいけないのは、ブレの問題である。不安がある場合は、シャッターをバルブにしておいて、スイッチのON,OFで露光する方法もある。


顕微鏡の撮影自体はそんなに難しいものでは無い。重要なのは、標本づくりの忍耐と、どこを切り取って作品に仕上げるかという、個々の感性の問題である。

秋山 実


・1930年、東京で生れる。青山学院大学英文科卒業。桑沢デザイン研究所リビングデザイン研究科卒業。大辻清司、北代省三両氏に師事。

・1965年フリーとなり、工業写真、建築写真、顕微鏡写真を主とする。全国カレンダー展、全国ポスター展など受賞

 

 

写真展など

・1965年 船台とパイプラインの周辺

・1974年 ミクロのデザイン

・1982年 工匠の具、大工道具(その用と美)

・1985年 中国の地下住居

・1989年 ミクロの風景、ミクロのデザイン、ミクロの世界(ハイビジョン)

     和風住宅、民家の再生、日本の伝統工芸、ミクロアートなど。 

(秋山実氏のご厚意により、氏の著書「ミクロアート」より引用いたしました)

(掲載写真等の著作権は、各作者に所属します)

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